■さらに、時間を追って来歴を見ていきましょう。
西暦800年から900年の間に、中国からシトロンがもたらされたことが本草和名に記載されています。
【本草和名(ほんぞうわみょう)】
西暦918年 深根輔仁(ふかねのすけひと)により記された、日本最古の医学用薬物辞典です。
◇本草(ほんぞう)とは
古代中国で利用された薬物一般を指し本草書とは、人の病気の治療と養生に用いる薬を記述した書物をいいます。
本草和名では、薬として利用される植物、動物、鉱物が記載されています。
その薬として利用されるものが国産か外国(中国)から導入されたものか、国産であれば産地を記載しています。
◆シトロンは、本草和名で
枸櫞(くえん)の名前で記されています。
ご存知の方もおられると思いますが、クエン酸は漢字では、枸櫞酸 と書きます。
シトロンは、【よもやま話2】でもお話したことがありますが、原生地は、東インドを中心とする地域で分類上、シトロン区に属します。
シトロンは、日本では、あまりなじみがありませんが、現在でも地中海沿岸地方で栽培されておりイメージとしてレモンの皮の厚いようなカンキツです。
生食には向かず、その果皮を砂糖漬けや果実酒の原料に用いています。
▼アレキサンダー大王が東征(紀元前336年〜323年)のおり、東インドからシトロンをヨーロッパへ持ち込んだことはすでにお話した通りです。
シトロンには、解毒作用があるとされています。
それは、枸櫞(くえん)と称せられたようにクエン酸のような有機酸とナトリウム、カリウムを含んでいるからです。
シトロンを食べると、クエン酸のような有機酸は新陳代謝を高め、体内で燃やされエネルギーに変わります。
ナトリウム、カリウムはアルカリ性なので体内の尿酸などの老廃物を中和化して、排泄を促進して疲労を回復する働きがあります。
▼古代ローマの将軍、政治家、学者であった大プリニウス
(西暦27年〜79年)もその著書「博物誌」でシトロンの解毒作用を述べています。
当時、処刑制度として、毒蛇に死刑囚を咬まして処刑することがあったようです。
あのクレオパトラが紀元前30年に、毒蛇(コブラ?)に身体を咬ませて自殺したのは有名な話ですね。
クレオパトラは、ともかく、処刑前に密かにシトロンを食べていると毒蛇の毒が回らず、この場合無罪放免されたとのことです。
☆シトロンの余りの人気のため次のような逸話が残されています。
シトロンの樹は、人々に余りにもてはやされるので自信を持ち過ぎていました。
シトロンは、「私ほど人に役立つ樹はないからおまえ達のような役立たずの樹どもは私が大きくなるために邪魔だ!どっか遠いところへ行っとくれ。」と言い、ほかの樹を遠ざけて、自分ひとりが広い場所に悠々と暮らしていました。
ある時、急に強い風が吹いてきました。
まわりにさえぎるものはなく、シトロンは、事もなくなぎ倒されたとのことです……