今までは、みかん(カンキツ)の世界的な広がりについてお話してきたのですが、では、みかん(カンキツ)はどうやって増えるのでしょうか?
「そりゃあ、接ぎ木やさし木に決まっているでしょ。」と言われる方がおられると思いますが、事実そうです。
しかし、前々回にお話したアレキサンダー大王がインドからシトロンを地中海地方に持ち込んだり、前回お話した田道間守が中国から非時香菓持ち込んだ場合などはどう説明すればよいのでしょうか?
接ぎ木やさし木ですとかんきつの枝の一部を切って台木(日本ではカラタチ)に差す訳ですから、切り取った枝はそう長く生存できないはずです。
苗木であっても、交通手段が発達した現在ならともかく移動に時間がかかる昔であれば、事実上、不可能でしょう。
「じゃあ、種かぁ?」となりますが、実はそうなんです!
「ちょっと待って!生物の時間に先生が言ってたけど新しい品種のみかんが発生したら、その原木は世界でたった1本で、その1本の木から接ぎ木やさし木で広まって行ったて聞いたぞ!」
それも正しいです。
「どっちかはっきりしてよ!」となりますがこの種あかしは、文字通り「カンキツの種」の不思議さにあります。
カンキツ類の中には種類によって「珠心胚」という無性的な生殖能力を持つものがあります。この「珠心胚」の能力を持っていますとその種子は母親の木の遺伝形質をそのまま引き継いでいます。
つまり、その種子さえあれば、母親そっくりのカンキツの木ができるわけで、すなわち、コピーのクローンができる訳です。
この「珠心胚」の形質を持つ種子ならば、アレキサンダー大王でも田道間守でも持ち帰るのが可能だったのでしょう。
しかし、この「珠心胚」の能力を持たない種類のカンキツは花粉により受精した種子(有性胚)でしか増えることができません。
花粉により受精した種子は、たとえ、自家受粉であっても母親の木の遺伝形質とは異なったものとなります。
この様な種類のカンキツは、母親の木の遺伝形質を引き継ぐ個体を作るためには、接ぎ木やさし木による方法しかないということになります。
私事で恐縮なのですが、私の家に樹齢56年の夏みかんの木があります。
なぜ、樹齢が分かるかと言いますと私が種から育てあげたのです!
と言えばすごいことと思われるかもしれませんが何のことはありません。
私が 御年7歳の初夏、夏みかんを食したのですが行儀の悪い私は、家の外で食べ、その種を家の庭にばらまくという快挙を挙行いたしました。
その後、数個の夏みかんの種が発芽しまして幼少の私は 猿かに合戦の かにの如く朝な夕なに水をやり、慈しんで育てていました。
その後、引っ越しを3回いたしましたが、引っ越しの都度、1本の夏みかんの木を持ち運んでは庭に植えていました。
それで、現在の家に移ってから48年目を迎え、1粒の種が樹高4メートル樹幅6メートルの巨木に成長しています。
もちろん、夏みかんの実は成ります。(酸っぱいけど……)
ということで種でもかんきつは増えるというお話でした。